1YEAR’S AFETR.
2025年、令和七年。僕と友人とのルームシェアを舞台にしたコラムというか備忘録的な雑文をこの場にて記してから、前回の文面から一年と二カ月の月日が過ぎました。友人Rと僕、Kの2人。前の執筆時から約一年が経ち、果たしてあの2人はあの後どうなったのか?
それを気にかけておられる方も、まずはいない事と思います。そうは思いますが一応、2人の今の近況をここに記しておこうと思います。
僕が小学生時代の友人Rの部屋に単身、小説家を目指して転がり込んでから一年余り。彼の紹介で船舶関係の会社に入りそこでの仕事に従事していました。船自体には特に思い入れは無かったのですが、機械全般が嫌いでは無かったですし、何より期間限定の仕事では無かったというのが、まず有難かったです。それから暫くして、時々、短い小説を投稿していた出版社から連絡があり、そこで出してる情報雑誌の巻末に短い短編小説を書かないかと馴染みの編集者の方から電話を頂きました。今はそこでの執筆をしながら、変わらず船舶関係の会社の仕事もしています。今、考えると小説を書いて生計を立てようなどと、よくよく考えた物だとは思いますが、紆余曲折ありつつも、今、なんとか先に繋がるそのとっかかりのような所にまで到達した現状です。東京の地で快く同居させてくれたRにも、口にはしませんが感謝の気持ちでいっぱいです。
そのRですが、今は大学院へと進みエネルギー工学の勉強をしているようです。前回の最期にここで記した原発に代わる電力生産の開発、施工、それを行使し日本国土に定着させるには当然の事ながら、たかが一年では何も出来る訳がありません。まず個人がそんな大規模なプロジェクトを単身行う事は、それは素人の自分から見ても無理だと分かります。彼が言うには、「まず基礎的な知識を一から勉強した上で他の分野のスペシャリストとも交流も重ね、当初、考慮していた発案をまとめそれを行使してゆくには最低でも10年、それ以上の歳月がかかると思う。果たして僕が生きてるうちにそれが叶うかは自分でも分からない。でも、当座、目標とすべき指針は出来た。やりたい方向性を見極め、その上で何を積み重ねていけばいいのかという全体像もなんとなく見えてきたよ」との事です。人の事を言えた義理ではありませんが、なんとも荒唐無稽な気長に先の見えない話だと思いました。
大阪から単身、上京しもうすぐ5年が過ぎようとしてます。20代前半。相も変らぬ未だ何も成し得ていない『ひよこ』のままの僕達2人です。変わった事と言えば、雑多な知識だけは無駄に、いえ有益な物も勿論ですが、明らかに僕は手に出来たと思います。果ての見えない迷い道の末の遠回り。それが全てに渡って本当に無為な時間だとは今は思っていません。船舶関係の仕事も先輩の方から基礎から教えて頂いた事が知識として自分の中に内在してる。それって、とても貴重な財産だと僕は思っています。でも、1年が過ぎて見た目の変化や、まして人に自慢できる肩書はやはり無いのですが。今はただ日々を司る明確に有限な時間を大切に使っていこうとそう思っています。親を筆頭に何かしらを期待していた方が、もしもいたとしたなら、どうかごめんなさい。そんな事を綴ってる今の自分です。
「カーター元大統領、亡くなったね」。その日の夜食時の事、めったに彼の方からは口を開かないRが静かな口調でそう話し出しました。その日はタラのムニエルに、ほうれんそうとベーコンのソテー。プチトマトとコーン、レタスを交えたサラダ。後、ポタージュスープ、そんな献立でした。勿論、全てこの家の『家政夫』である僕の手作りからの物です。
「え?何?いきなり」。とムニエルを頬張りながら言葉を返す僕。「昔のアメリカの大統領。俳優出身だったレーガンの前だよ。カーター元大統領はノーベル平和賞も受賞してる。その方が昨年末に100歳で亡くなったらしい」。「そうなんだ?でもそれが何か君と関係あるの?リスペクトしてたとか?」。ムニエルの味付け少し薄かったかな?そんな事を思いつつ、Rの口にした言葉を半ばうわの空で聞き流しつつ僕はそう返した。
「今のトランプ大統領、君、どう思う?」。「え?ああ、あの人ね。かなり強引というか殊更、ファーストを連呼してるよね。僕は別に何も思わないけど、かなり心酔してるシンパも向こうで多いのはなんとなく知ってるよ。まぁ、だからこその大統領就任なんだろうけどさ」。「彼が就任する兆しになった頃から、良くない噂は山ほど聞いていたし前回、大統領だった時にも色々あった。その彼がついにアジア圏にも動きを見せ始めた」。「ごめん、今日のムニエル、あんまり美味しく無かったんじゃない?今度、調味料、変えてみるよ」。「各国へと大きな関税策を取ってるのは少し前から聞いてたけど、日本にもそれを行使し始めた。日本の主流産業である、自動車等を軸にして」。「それって…」。「政治的配慮というの名を冠したあからさまな経済的攻撃」。「それとさっきのカーターだっけ?なんの関係があるの?」。「同じアメリカ大統領とは言え真逆に対極な存在だと思う。カーターの訃報を聞いてまず自分が思ったのはその事だよ」。
「つまり、トランプさんをディスってる?君、温和な顔立ちをしながら、実はかなり辛辣だものな」。「別に現大統領を揶揄してもいないし、嫌悪してもいないよ。ただ、個人としての視点が歴代大統領の中でも殊更に攻撃的。アメリアを世界の警察に、まさにアメリカファーストにと固執し過ぎてるきらいがあるように思える。それが現在の数多の戦火の場に殊更に油を注ぐ結果にならないか、それがただ心配なだけだよ」。「や、目が何気に怖いよ今の君。やっぱ、嫌いなんだろ?あの人の事」。「好き、嫌いの事を別に言ってないさ。でも、現在、戦乱の地にいる代表にアクセスしようとしたり、SNSから自らの政策、行動理念を語るそれを聞いてると、なんとなく彼の在任期間の4年間がとても不安に感じるよ。下手をすると彼がブラックボックスのスイッチを押すのではないかって。決して押してはいけないそれを。そんな事を想像しては疑心暗鬼にかられて怖くなる時がある。こんな事、普段は誰にも言わないんだけど…」。「君、神経質過ぎだって!。僕ら、ただの一般市民なんだぜ?そんな世界的な何某(なにがし)を考えても仕方なくない?」。「わかってる、それは。一個人が何を憂慮しても、大事には何の影響もないって事はさ。それでもそれを考えてしまう自分が、自分でも大概、重く感じてるのは本当だよ」。「なぁ、たまには一緒にゲームでもする?それともキャッチボールでもして少し体、動かすくらいならいくらでも付き合うよ」。「ありがとう。やっぱり君と同居したのは色々な意味で良かったと思うよ。でも…」。「でも、何?」。
「どうせなら…」。「どうせなら?」。「キャッチボールより…」。「うん、キャッチボールより?」。
「バスケがしたい…かも」。「君、ミ〇イか!って俺、あの先生?」。「昔、シュートの練習、一時期、公園で一人でやってたから」。「分かった分かったよ!リングのある公園、知ってるから、そこでワンオンワンでもする?。やっぱり体、動かさないと頭もまわらないと思うし、そんな風によくない事ばかり考えてると気が滅入るだけだと思うしね。だいたい僕もバスケは好きだし」。
と、そんな夕食時の何気ない会話をしつつその日は終わりました。彼がバスケが好きだったとは正直、まったく知らなかったけど、いつも室内に籠りっぱなしよりかは遥かに良い事だとは思います。僕が今、考えてる小説は青春もので、スポーツをテーマにした学園ものだし、たまの運動も何かの役には立つかもしれません。そんな今日という一日が終わりを迎え、明日もまた仕事です。何かを続けるなら時に小休止も必要だと自分でも思います。でも、考えたら彼とアウトドア的な事をするのって、多分、今回が初めての事かもしれません。長い付き合いでも、彼に限らずまだまだ隣の知人は知らない事ばかりです。例えそれがどんなに親しい関係だとしてもね。そんなバスケ云々の事はまた今度、お話します。
あ、余談ですが、ムニエルはほんの僅かにコショウをふった方がいいかもです。そういった微細な事でも、結果、それが大きな意味を持つ事もあります。僕の仕事の事も彼の勉強の事も、2人の夕食の献立の事も、そして各国のトップの政策も、それら皆、すべからく全て同じとは勿論、言えませんが。って当然か。
さて今日の日はこれで。明日も天候がよければ良いのですが。何はともあれ彼と僕、2人共それなりに元気にやってます。課題は山ほどあってもね。では、また会う日まで。